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人材獲得力のキーは「昇進・昇格制度の公平感」にあった

昨今は日本企業でも人材流動化が進み、かつてのように新卒で入社した一社にとどまり続ける傾向は薄くなりつつあります。たとえ管理職層であっても、キャリアの幅を広げるために、他企業への転職にチャレンジするケースも珍しくはないでしょう。
ただし採用する側の視点で考えれば、生産年齢人口の減少にともない、優秀な人材の獲得競争は激化しているといえます。魅力的な報酬やオフィス環境が用意できない企業では、どのように自社の採用ブランディングを展開するか頭を悩ますことも増えているようです。
今回は、新しい道を模索する転職者の立場に立って、どのような企業に魅力を感じ、どのような点をアピールすれば、管理職候補者の気持ちを動かすことができるのかについて考えていきます。
流動化が止まらない管理職層
「管理職は生え抜きの人材に任せたい」という風土が強い日本企業ですが、昨今、管理職の求人は増加傾向にあります。実際、2016年度から2022年度にかけて管理職求人が3.7倍になっているという調査結果が発表されています。
この背景の1つとして、社内での管理職育成の難しさがあると考えられます。管理職昇格について課題として「管理職になりたくない社員が増えている」が1位で、人事担当者の42.7%がそう感じているという調査結果も発表されています。
こうした背景から、企業は社内での管理職育成だけではなく、外部労働市場にマネジメント人材を求めはじめている状況がうかがえるでしょう。
参考:管理職求人・転職が増加 管理職採用で事業変革・専門スキルの獲得を狙う企業の動き IT・インターネット業界だけでなく、製造業でも同様の傾向 | 株式会社リクルート
参考:「マネジメントに対する人事担当者と管理職層の意識調査2023年」
管理職の転職市場が活性化しているということは、管理職採用の競合が増えているということです。
単に報酬・ポストを列挙しているだけの求人票では、転職者にとって「魅力的」と思われないリスクがある時代に突入したといえるでしょう。
転職を決意する真の理由とは?
激化する管理職の転職マーケットにおいては、報酬などの勤労条件よりも、より転職者のインサイトを理解する必要があります。
管理職層の転職活動を考えたきっかけの上位2つは「仕事の達成感が感じられない」(49.8%)、「自分の仕事が評価されていないと感じる」(44.9%)でした。
1つ目の「仕事の達成感」は、仕事に対する直接的な不満で、他社で自身が満たされる仕事を探索している状況がうかがえます。
他方、2つ目の「仕事が評価されていない」は、人事評価制度やマネジメントへの不満が要因になっているといえます。
このような転職理由があるため、 転職先を選ぶ際の重視項目も「自分の専門性を活かすことができる」(69.5%)、次いで「仕事の成果や業績が正当に評価される」(60.7%)と続いています。
参考:ハイクラス転職サービス『CAREER CARVER』アンケート集計結果
もちろん、この結果は外部からの人材獲得だけでなく、自社からの人材流出の観点でも解釈しなくてはなりません。社員のリテンションのためにも、仕事とのマッチングや正当な評価は、気をつけるべきポイントでしょう。
なお上位2項目を人材採用観点で考えると、「専門性を活かす」は、個人のモチベーション・価値観と仕事とのマッチングなので、企業としてはなかなかコントロールしがたいといえます。しかし「仕事が正当に評価される」は、人事が中心となり組織的に整備できるコントロール可能な観点といえるでしょう。
昇進・昇格基準の見直しは社内外へ影響力が大きい
では企業側は、社内の制度に対してどのような認識でいるのでしょうか。
「企業の人材マネジメントに関する調査2023」によると、「人材の評価」「昇進・昇格」に関する制度変更や、従来のやり方を見直す必要があると感じている企業は約46%との回答がありました。特に、昇進・昇格制度を変える必要性を感じている理由の最多は、「年功序列の昇進・昇格を是正する必要があるため」でした。
年功序列の昇進・昇格は、「日本型雇用」の特徴の1つですが、今の経営環境に適した見直しを考えている様子が見てとれます。ただし、先ほど述べた転職市場における人材の流動性の高まりを考えると、より外部労働市場を意識した設計が重要性を増すでしょう。
さらに調査の分析からは、「人材の評価」「賃金・報酬」「昇進・昇格」の3つの制度をすべて見直している企業は人材採用ができており、かつ従業員エンゲージメントも高い傾向にあることが分かっています。
参考:「企業の人材マネジメントに関する調査2023」
もちろん3つの制度を同時に変革できれば良いのでしょうが、そこまでのパワーをすぐに捻出できる企業は稀でしょう。
この3つのなかでも「評価」や「賃金」は人事制度設計そのものを変更する労力が必要です。
一方「昇進・昇格」は、基準の明示など運用の変更から始められるため、比較的着手しやすいのではないでしょうか。
つまり、自社の昇進・昇格の基準を納得感が高いものにして、透明性を上げることで、既存社員のエンゲージメントのみならず、外部人材への採用アピール材料にもなるのです。
「公平性」のポイントは客観性・透明性の担保
あいまいな評価基準のままでは、前述した「自分の仕事への評価に納得ができない」と感じている、転職者層にアピールすることはできません。
一方で、評価基準に課題を抱えている企業は意外に多い現状があります。
弊社の調査によると、「昇進・昇格要件(基準)があいまいで納得性がない」が選択率の第2位でした。
<図表>あなたの会社では、「昇進・昇格運用」において、どのような問題があると認識されていますか。あてはまるものをすべて選んでください。
参考:「なぜあの人がマネジャーに?」という問いに答えられる 将来の活躍が期待できるマネジャーを選ぶためのヒント
あいまいで納得感がない昇進・昇格基準になっているのであれば、客観的な指標として適性検査を活用することがお薦めです。弊社の「管理者適性検査NMAT」は、毎年約1200社40000名の受検者がいるため、どのような業種・職種であっても、「世のなかの基準と比較している」という根拠になるでしょう。
NMATでは、人の行動のベースとなる資質の層を測定しているため、これまでの職務履歴やスキルでは見極めにくい、管理職としての未知の能力予測が可能となっています。
「メンバー時代の活躍」や「上長からの推薦」という理由ではなく、客観的に世のなかの管理職と比較した基準を持っていることは、外部から転職しようとしている方にもアピール材料になるはずです。過去の実績がない未知の企業に飛び込む際でも「きちんと自分の評価をしてもらえる」という、安心材料になるからです。
特に管理職層や管理職候補層というハイキャリアの方を採用するためには、昇進・昇格基準を開示することは必要になります。
前述の調査のように「あいまいで納得感がない昇進・昇格基準」で運用している企業が多い状況を考慮しても、採用候補者の気持ちを動かす武器になることでしょう。
人は誰しも正当に評価されたい
管理職の中途採用と聞くと、ポストや報酬を魅力的なものにしようと、構えてしまう企業も多いものです。しかし転職者本人としては「正当に評価される企業で、生き生きと働きたい」という、働く人なら誰しもが願うインサイトがあるのです。
むしろ昇進・昇格基準そのものの妥当性よりも、採用場面では「基準を開示する」企業姿勢に、信頼感を抱く可能性もあるでしょう。
また、昇進・昇格は会社のなかでも注目度が高く、象徴的な場面といえます。したがって、昇進・昇格基準を社内外に説明ができるものに変更するだけで、新入社員でもベテラン社員でも「この会社は正当に評価をしてくれる」と仕事に前向きな姿勢になるのではないでしょうか。