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管理職に必須なジョブ・アサインメント行動をどう促進するべきか
管理職が担う役割は多岐にわたります。
メンバー育成、組織活性化、部署間の連携......。しかし、それらの役割を果たすことの究極の目的は、組織や企業の業績向上に集約されるのではないでしょうか。
ピーター・ドラッカーは「組織やチームの成果に対して、責任を負うべき者」とマネージャーを定義し、「仕事を組織し、働く人たちに成果をあげさせる」ことでマネージャーはその責任を果たすべきであると述べています。
チームの業績は、管理職がそれぞれのメンバーに割り振った仕事が、 各人によって遂行されることにより達成されます。したがって、管理職が職務設計し、それらをメンバーに任せ、遂行をサポートしていくというジョブ・アサインメントを中心としたマネジメントプロセスは非常に重要といえます。
今回は、管理職が業績に与える影響と、その業績に直結しやすいジョブ・アサインメント行動について、興味深い調査結果を題材にしながら解説を進めます。
INDEX
管理職の存在は何に影響を及ぼすのか
「管理職は組織業績向上のため、重要な存在である」
そのことに異論を唱える方はほとんどいないでしょう。
しかし現実として、管理職の昇進・昇格の基準が曖昧になっている企業や、管理職登用後の組織的なフォローが手薄になっている企業は少なくありません。
「管理職は重要」と頭では認識しつつも、厳格な昇進・昇格基準の運用や組織的なマネジメント育成に未着手の状態では、管理職によるポジティブ影響を享受することも、ネガティブ影響を防止することもままならないのです。
その理由の1つとして、管理職のジョブ・アサインメント行動が、組織業績など重要指標に具体的かつどの程度のインパクトがあるかが判明していないことが挙げられるでしょう。
海外での先行研究では管理職によるジョブ・アサインメントの重要性を説く論文や、管理職の職務設計方法を指南するものもあります。ただし、管理職がいかにジョブ・アサインメントをすべきかについて、体系立った方法論としては確立していないのが現状です。
管理職の存在が組織業績に与える影響とは
管理職のジョブ・アサインメントに関する研究が乏しい状況のなか、「人」と「組織」に特化した研究機関であるリクルートワークス研究所が一石を投じる研究結果を発表しました。
管理職のジョブ・アサインメントについて、定量的アプローチ調査によってその実態を明らかにしたのです。 調査の結果はジョブ・アサインメントがチームの業績に効果があることを示しており、管理職の業績の高低によってどのようなアサインメント行動に違いがあるかについて明らかになりました。
その研究結果のエッセンスをここからはお伝えしていきます。
管理職のジョブ・アサインメント行動は、業績向上には不可欠
調査では、日本企業の管理職1221名に対して、39の具体的なジョブ・アサインメント行動について質問し、その結果を因子分析しています。さらに因子をもとに「一連のジョブ・アサインメント行動」として5つの合成変数を作成し、共分散構造分析で業績への影響を確認しました。
その結果は図表1のとおりです。
図表1 ジョブ・アサインメントと業績の関係
出典:リクルートワークス研究所「管理職によるジョブ・アサインメントと 業績の関係性」(2018)
一連のジョブ・アサインメント行動は、最終的に組織業績に影響を与えることが、統計上の数値で示されたのです。これまで「影響はあるはずだ」と漠然と認知されていたことが、科学的に証明されたのです。
「高業績」管理職と「低業績」管理職では、ジョブ・アサインメント行動に差がある
調査では、管理職の業績の高低によって、ジョブ・アサインメント行動の実施状況にどのような違いがあるかを確認しています。
図表2 業績の高低によるジョブ・アサインメント行動の実施状況の違い
注:網掛けは業績達成回数との相関係数が優位かつ0.15以上の行動。太字は高業績管理職と低業績管理職で特に実施状況の差がある行動。*p<0.05,**p<0.01
出典:リクルートワークス研究所「管理職によるジョブ・アサインメントと 業績の関係性」(2018)
ここから読み取れる、業績の高低によるジョブ・アサインメント行動の違いは以下2点です。
- 「高業績」の管理職は「低業績」の管理職に比べて、すべてのジョブ・アサインメント行動の実施率が上回っている
→高い業績をあげるためには、数少ない特定の行動に注力するのではなく、ジョブ・アサインメント行動を一連のプロセスとして捉え、それぞれの行動を満遍なく行っていることがうかがえます - 「高業績」の管理職は、「特に重要なジョブ・アサインメント行動」(図表3)をより丁寧に実施している
→図表2で、太字で表したジョブ・アサインメント行動は、業績の高低によって特に実施状況に開きがある行動です。これらのうち9つの行動は「特に重要なジョブ・アサインメント行動」と一致しており、「高業績」の管理職であるほど、「特に重要なジョブ・アサインメント行動」をよりよく実施しています
ジョブ・アサインメント行動には重要度と実行難易度のグラデーションがある
図表3は、全ジョブ・アサインメント行動を重要度と難易度で分類したものです。
「低業績」の管理職、あるいは経験が浅い管理職がまず習得すべきジョブ・アサインメント行動は、特に重要かつ難易度が1の行動といえます。これらの行動は、業績達成に対して重要であり、なおかつマネジメント経験が3年未満の管理職であっても実施率が高いジョブ・アサインメント項目だからです。
例えば、「リアルタイムフィードバック」とは、メンバーの良い行動について、すぐに・その場で褒めることですが、意識さえすれば誰でも実践可能な行動でしょう。
一方で、特に重要かつ難易度が3や4の行動は、業績達成のために重要なジョブ・アサインメント行動ではあるものの、習得するまでに一定の経験や教育を要すると考えられます。難度が高い行動ほど、管理職の上層部や全社的な育成施策など、計画的に習得を進めることが推奨されるでしょう。
図表3 ジョブ・アサインメント行動の難易度
出典:リクルートワークス研究所「管理職によるジョブ・アサインメントと 業績の関係性」(2018)
最終的にはすべてのジョブ・アサインメント行動ができるようになることを目指すべきでしょうが、いきなり全てを求めることは管理職の負荷を上げかねません。重要なのは、自社の管理職を思い浮かべた際に、どの行動を求めていくか・開発を進めていくかの優先順位をつけることでしょう。
ジョブ・マネジメント行動促進には、管理職個々人の特性を踏まえるべき
ここまで紹介した調査結果で、管理職が組織業績に与えるインパクトや、具体的に必要となるジョブ・アサインメント行動がご理解いただけたかと思います。
しかし現実として、求められるジョブ・アサインメント行動を実行しやすい・しにくいは管理職個人の特性によって分かれるでしょう。特に高難度のジョブ・アサインメント行動は習得が困難であり、場合によっては元々の資質的な特性によって、後発的に開発が難しい場合もあるでしょう。
そこで、先の調査結果はベンチマークしつつも、自社で取り組むときには管理職個々人の持ち味に目を向けるのが先決ではないでしょうか。この際「管理職Aさんはこんな行動が得意そうだ」と感覚で捉えるのではなく、客観的・科学的な適性検査を活用することが推奨されます。
その参考となるのが、管理職に特化している適性検査です。
弊社の「管理者適性検査NMAT」は1969年の初版開発時に、あらゆる業種のデータをもとにして、管理職として共通して求められる素養を抽出しました。
適性検査であれば、管理職の適性把握と自己理解が同時実現できる
適性検査を使う意義は「周囲からは見えにくく、変わりにくい資質面」を測定していることです。NMATでは、人の行動のベースとなる資質の層を測定しているため、現在の仕事とは関連のない業務への適性の予測が可能となっています。
図表4 企業の成果創出モデル
例えばジョブ・アサインメント行動でも「細かい進捗管理」や「深い内省」「メンバーの観察・見守り」など、元来の性格特性として発揮しにくい方は、努力による行動改善だけでは、高いレベルで実行するのが困難なものもあるでしょう。人事としては「自社のジョブ・アサインメント行動で、ここだけは発揮を求めたい」が特定できれば、昇進・昇格の際にNMAT結果を確認することで、発揮確率が高い人材を管理職に登用することができます。
一方で、NMATが真に価値を発揮するのは、現管理職に対するアプローチともいえます。
今後昇進・昇格のルールを整え、新任管理職の登用を進めていくとしても、管理職の比率として圧倒的に多いのは現管理職でしょう。現管理職全員が「自分は何が得意・不得意で、今後どのような行動改善が必要なのか」を考えられれば、組織全体に前向きな空気が生まれるはずです。
そんな自己理解・内省のサポートのために、NMATでは「あなたのキャリア開発のために」という本人フィードバック用報告書もご用意しています。この報告書は、解釈しやすい・受容しやすい表現に変換しているため、管理職自身が自分の本来的な持ち味をあらためて確認することが可能です。
現管理職一人ひとりについて「発揮しやすい行動」や「自分が望む管理職スタイル」が可視化されることは、この先のジョブ・マネジメント行動を鍛えるヒントになるでしょう。
管理職もかつてはジョブ・アサインメントを受けてきた
管理職に求める役割が多岐にわたるということは、管理職自身もプレイヤー時代には鍛えていなかった行動を登用後に求められ、筋肉疲労を起こしている可能性もあります。
ただどのような管理職も、プレイヤー時代に上司から「次はこんな仕事にチャレンジしよう」や「この仕事でこのような力を伸ばしてほしい」とジョブ・アサインメントを受けて、奮起、成長した経験はあるのではないでしょうか。そのように考えると、管理職に求められる多岐にわたる期待のなかでも、ジョブ・アサインメントは管理職自身の経験をもとに開発しやすい行動と見なせるかもしれません。
自らのジョブ・アサインメント行動が変わることでメンバーの成長や変化を目の当たりにすれば、管理職自身の成長実感にもつながるでしょう。