導入事例・コラムCOLUMN
坪谷邦生氏と考える
「マネジャー・管理職登用のこれから」第1回
「誰がマネジャー・管理職を担うか」は、組織にとっても部下にとっても、また本人にとっても非常に影響が大きく、重要なテーマです。昨今では管理職登用の重要性・難しさに加えて、「管理職になりたくない若手が増えている」課題にお悩みの経営者・人事の方も多いのではないでしょうか。
本連載では、『図解 人材マネジメント入門』『図解 組織開発入門』『図解 目標管理入門』(いずれもディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者である坪谷邦生氏と、マネジャー・管理職登用をめぐる課題と解決の糸口、管理者適性検査NMATの開発背景、現開発者の想いとNMATの進化のポイントについて、全3回でお伝えしていきます。
マネジャー・管理職の役割は?
ー今回のテーマであるマネジャー・管理職の役割について、どのように捉えていらっしゃいますか?
坪谷邦生氏(以下坪谷):
マネジメントの父と呼ばれるP.F.ドラッカーは、マネジメントには大きく3つの役割があると言っています。
- 自らの組織に特有の目的とミッションを果たす。
- 仕事を生産的なものとし、働く人たちに成果をあげさせる。
- 自らが社会に与えるインパクトを処理するとともに、社会的な貢献を行う。
(P.F.ドラッカー『マネジメント(上)』エターナル版より)
これはつまり、マネジメントを担う人(マネジャー)は「一人ひとりが自組織の経営者であるべきだ」ということだと私は捉えています。
そしてドラッカーは「人間力の醸成と方向づけこそマネジメントの役割」(同書より)とも言っています。働く人たちの自己成長と自己実現を助け、目的へと方向づけること、そしてそれによって成果をあげることがマネジャーの役割なのではないでしょうか。
ーーそういった役割が実現されると、理想的な状態だと思います。実際に実現できている組織は多いのでしょうか?
坪谷:
実現できている組織はなかなか多くないのが現状だと思います。マネジャーへの期待と負担が大きすぎて、担いきれず機能不全となってしまったり、マネジャーやマネジャー候補の絶対数が足りなかったり、という悩みの声を多く聞きます。
一方、兆しとして「マネジャーが担う役割を分ける」ことで解決している組織も出てきているようです。例えばソフトウェア開発のフレームワーク「スクラム(Scrum)」を採用している組織では、マネジャーに集中しがちな役割を3つに分担しています。投資対効果を最大化させる「プロダクトオーナー」、自律的なチームを作る「スクラムマスター」、生産性を向上させる「開発チームメンバー」です。
1人だけの肩に乗せない、マネジャーの役割を分担する、という考え方は今後のマネジメントを考えるうえでのヒントになるかもしれません。
マネジャーになりたくない問題にどう対処する?
ーー最近では「マネジャーになりたくない」問題が話題に上がることが多いですが、どのようにお感じですか?
坪谷:
「マネジャーになりたくない」のは当たり前だと思います。
誰しも初めはマネジャーなんてやったことがないのです。なりたいか?と聞かれても、「食べたことのないピーマン」をいきなり食べてみたいかと聞かれるようなものです。「食べたい」と答える方が珍しいのではないでしょうか。食べてみたらおいしいものでも、食べたことがない段階では「苦そう」というイメージで止まってしまう、という類のテーマだと思っています。
なってみないと、マネジャーの楽しみや喜びは分からないのですよ。
もちろん、マネジャーの仕事は、簡単ではないので「苦い」かもしれません。仕事の役割転換・トランジションのなかでも、プレイヤーからマネジャーへの切り替えは、学生から社会人への切り替えと並ぶ大きな転換であり、苦しい時期も多分にあると思います。プレイヤーとしては勝てていたのに、マネジャーになると突然勝てなくなる。人を通じて成果を出すとなった瞬間に変数が増えて思い通りにいかなくなる、というお話はよくお伺いします。その時期に苦しんでいるマネジャーをメンバーが見るため、「大変そうだ」というイメージが蔓延してしまうのかもしれませんね。
しかし、その切り替え(トランジション)がうまくいくと、途端に見えるものが変わってきます。自分1人よりも大きな成果を出すことができる。組織だと何倍もの力を出すことができる。その楽しさを感じられるようになってくるのです。これまで味わったことのない感覚だと思います。
マネジャーとしてチームで活躍することは、ロボットに乗り込んで戦うアニメに例えると分かりやすいのではないでしょうか。乗りこなすまでには時間もかかります。「動いてよ!」と叫びたくなる瞬間もあるかもしれません。しかし身体になじんで感覚をつかんでくると、1人の生身の人間とは比べようもないほど圧倒的な強い力を発揮できるのです。
ーーマネジャーの大変さはよく耳にしますが、マネジャーのやりがいはあまり語られることが多くないように感じます。
坪谷:
たしかにそうですね。それはマネジャーという役割の特性も原因なのではないでしょうか。メンバーを生かそうとする真摯なマネジャーこそ、成果が出た際に「メンバーの功績です」と言いますからね。メンバーは仕事のなかでは多かれ少なかれ苦しい場面もあるわけなので、マネジャーがピュアに「楽しい」と言いづらい側面があるはずです。
メンバーに対しては表立って語らないものの、チームを通じて成果を出すことの影響の大きさ、人の成長場面に立ち会えること、それを支援できることなどにやりがいを感じているマネジャーは想像以上に多いと思います。
ーー「マネジャーになりたくない問題」について、解決の方向性があればと思いますがいかがでしょうか?
坪谷:
「なりたい」人ではなく「向いている」人にやってもらうとよいと思います。
お話しさせていただいたとおり、食べたことがないピーマンを普通は食べたくないのです。もう「なりたいか?」を気にするのをやめてはどうでしょうか。向いている人、つまり適性のある人を見つけて、お願いして、やってもらいましょう。適性のある人は、たとえ苦労はしてもうまくいく可能性が高いです。
うまくいくと楽しくなります。自分1人ではできなかった大きな成果が出ると、大抵の人は嬉しいのです。「CanのWill化」と私は呼んでいますが、「向いていることを任されて、取り組んでいるうちに成果が出て楽しくなってくる」という人は多いと思います。
こういうお悩みをよく聞きます。「プレイヤーとしてはさまざまな経験を積んできて、結果も出している。しかし器用貧乏なんです。この先どんなキャリアを歩めばいいのか...」
こういった方にマネジャーとしての適性があるのであれば、周りが期待をかけてマネジャーを任せてみる選択肢は有効だと思います。
周囲が期待をかけること、本人が期待を受け取って一歩踏み出すことは、どちらも勇気がいることです。管理者適性検査NMATは、「マネジャーになりたくない問題」に対して、「向いている人」を見つける役割と、期待を伝えて背中を押す役割を果たせるツールだと捉えています。管理者適性の可視化ツールも、経営者・人事が「マネジャーになりたい人を集めて合否を決める」という形から、「マネジャーに向いている人を見つけて背中を押す」という形に変えていく、よりコミュニケーションツールとしての意味合いが強く求められていると思います。
管理職登用の課題は?
ーー成長企業における、管理職登用について感じていることはありますか?
坪谷:
IT関連の成長企業の人事経験から、エンジニア職で管理職になりたい人が非常に限られており、常に候補者が不足している状況は見てきました。最近でもそういうお悩みをご相談いただくことはよくあります。
ご相談内容で共通していることが指向(なりたい)の話に寄っている、ということです。「なりたい人がいない」のですが、先ほどのお話のとおり、適性(向いている)に目を向けると解決策の幅がぐっと広がります。
「向いている人」が見えてくると、候補者が広がりますし、組織を任せた際に結果的にうまくいくケースも増えてきます。
ーー女性管理職比率を上げたい、というお話もよく伺いますが、このテーマについてはいかがですか?
坪谷:
まず前提として、現状女性管理職が圧倒的に少ない状況ですから、ポジティブ・アクションとして上げることには意義があると考えています。ただ、数値目標ばかりに目が行き、無理に増やすことは女性管理職当人にとっても、組織成果や他の社員への影響の面でもよくないケースがあります。
先ほどの、向いている人の背中を押す、という話は女性管理職候補にもあてはまるかと思います。出産や育児などのライフイベントに直面する前にマネジメント経験を積めるかどうかは、復職後の活躍に大きく影響します。可能であれば若手のうちにマネジメントの役割を一部であっても経験しておくことはとても大切です。
そう考えると、アジャイル開発スクラムの例でお話ししたようにマネジメント機能を分割することは、女性活躍の分野でも重要であることが分かります。そして、適性がある人の背中を押してあげて、「想定していなかったが、マネジャーもありかもしれない」と感じられる機会を意図的につくっていきたいですね。
管理者適性検査NMATの特徴は?
ーー管理者適性検査NMATについて、何が特徴だと思われますか?
坪谷:
マネジメントの「適性」が分かるということに尽きるのではないでしょうか。
多くの企業では、「やりたいかどうか」という指向にだけ目が行ってしまっているように見えますが、ぜひ「適性」に目を向けて、マネジャー登用にまつわる課題を捉えていただけたらと思います。この連載の2回目で詳しくお伝えする予定ですが、NMATを使用すると、適性は一定の確率で測定することができます。多くの企業では「適性は測れる」という事実を知らないために、不要な苦労をされているように感じています。
また、NMATはマネジャーだけではなくスペシャリストや新規事業の推進という役割の適性も分かるため、マネジャー以外の選択肢も含めて、人事・上司とメンバーの間で「ここが向いているんだね」と前向きなやり取りができることも、使いやすい点ではないでしょうか。キャリアについて考える機会が増えているなかで、コミュニケーションの媒介として機能していくとよいのではないかと思います。
次回は、リクルートマネジメントソリューションズにおけるテスト事業の創業メンバーであり、管理者適性検査NMATの開発者である二村英幸氏にインタビューを行います。NMATの測定精度、NMATがどのような背景でどのようなこだわりを基に開発されたのかをお伝えします。