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坪谷邦生氏と考える
「マネジャー・管理職登用のこれから」第2回
日本における人事制度の潮流と
管理者検査NMAT開発の歴史

2024年09月09日 NMATの特徴 マネジメント/管理職とは 管理職登用

坪谷邦生氏と考える「マネジャー・管理職登用のこれから」連載第2回として、リクルートマネジメントソリューションズにおけるテスト事業の創業時代のメンバーであり、『人事アセスメントハンドブック』(金子書房)、『人事アセスメント入門』(日経文庫)などの編著者である二村英幸氏にインタビューを行いました。
インタビュアーは坪谷邦生氏です。

坪谷邦生氏(以下坪谷):
1回では、「マネジャーになりたくない問題」を取り上げ、なりたいかどうか(指向)だけではなく、向いているかどうか(適性)に着目すると見える世界が変わり、打ち手の選択肢が増える、ということをお伝えしました。多くの企業はマネジャーの適性を測ることができることをご存じないために、苦労されているのです。

今回は、マネジャーの適性を測定・可視化できる管理者適性検査NMATの効能と限界について見ていきましょう。創業時からの開発者である二村英幸さんにインタビューしたいと思います。 

人事制度・キャリア観の変化と、管理者適性検査NMAT改訂の経緯

坪谷:
まず前提として、管理者適性検査NMATの品質(妥当性)について確認させてください。NMATを使用している組織において、現役管理職の昇進度合いとNMATの尺度の関連性を調べたところ、統計的な有意差が見られています(研究データ:https://mat.recruit.co.jp/nmatnews/000328.html)。

ここまでの精度でマネジャーの適性を測ることができるツールは、日本ではほかに存在しないと思います。なぜ、どうやって開発されたのでしょうか。経緯について教えてください。

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二村英幸氏(以下二村):
リクルートのテスト事業としては「専門的な知識が必要なテストを人事パーソンが扱えるようにしたい」という想いから、1963年に適性検査SPIの前身となる基礎能力検査、1965年に性格特性検査をリリースし、採用場面において人物の資質を確認するツールとして、人事の方にご活用いただいておりました。

その後、管理者の登用場面において活用できる適性検査を開発できないかと研究開発を進め、1969年に管理者適性検査MATをリリースしたことが起源です。当時のMATは、管理職の適性判定のみを目的としていました。1979年には専門職適性を組み入れて再開発し、管理職・専門職の2役職ごとの判定ができるようにしました。さらに1993年にNMATとして、「組織管理タイプ」「企画開発タイプ」「実務推進タイプ」「創造革新タイプ」の4つの役職タイプの適性を把握する形に改訂しています。

坪谷:
開発当初は管理職のみの適性判定だったのですね。当時の社会状況やニーズといった背景をお伺いしたいです。

 二村:
1969年のリリース当時は高度経済成長期で、「管理職層が足りない・増やしたい」前提がありましたので、比較的管理職へのハードルが低い状況でした。そのなかで、「管理職を増やしたいが、もちろん誰でもよいというわけではない。現場で活躍する人を選ぶ意味でも、当人の納得のためにも、何か基準が欲しい」というご相談が出てきたことが開発時の背景にあります。

MATは、最初から多くのお客様に爆発的に導入されたわけではなかった、と記憶していますが、公平な管理職登用方法に悩んでいらっしゃるユーザーさんには、前向きに受け入れられていた印象です。 

坪谷:
そこから「専門職」の適性も測定できるように改訂した背景について、教えていただけますでしょうか。 

二村:
それまでは「管理職」のみだった適性判定を、1979年には「管理職」・「専門職」の2つの適性が確認できる形に改訂しました。

時代背景としては、職務の専門化・複雑化を踏まえ、等級が上がる=管理職という「単線型人事制度」から「複線型人事制度」への転換を進める企業が増え、「専門職」になる、というキャリアパスを歩む人が増えてきたことがあります。

当時の経営者・人事としては、「専門職に適性がある人は専門職になるキャリアを前向きに捉えてほしい」という想いがありましたが、個人としてはキャリアパスといえば管理職、という価値観を持っている人も多かった印象です。

坪谷:
時代の流れのなかで人事制度・管理職登用の在り方と共に変化してきたことがよく分かります。そこからさらに、4つの役職タイプへの適性が判定できるようになるのですね。 

二村:
NMATは新しいMAT、ということで、1993年にリリースしています。
そこで「組織管理」「企画開発」「実務推進」「創造革新」、4つの役職タイプについて「本人がどの程度、興味関心を抱いているのか」という「指向」の概念を取り入れて判定する、という今のNMATの原型ができました。

個人のキャリア形成に幅を持たせることを前提とした人事制度設計・人材マネジメントポリシーの見直しを行う企業が増えてきたこと、管理職になりたくないという人が増えてきたこと、企業と個人の双方に変化が出てきた時期でした。

「あなたはどんなキャリアを選びますか?」と企業は個人に問いたい、個人はキャリアについて向き合う機会を創りたい、というニーズが高まっており、そこに応える内容に進化した改訂であったと捉えています。このころから、キャリアガイダンスのニーズも高まり、結果のフィードバックを行う試みが増えていきました。

坪谷:
「適性」の役割タイプが増えただけではなく、「指向」を把握し、本人に「フィードバック」する...まさに「自律的キャリア」が求められてきた時代の潮流に対応して進化してきたのですね。

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昇進昇格選考に適性検査を適用する意義と限界

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坪谷:
時代ごとの人事制度の潮流、企業ニーズ、個人のキャリア観の変化を踏まえて、適性検査は形を変えてきたのですね。松尾芭蕉は「不易流行」と言いました。変わらない原則(不易)と時代ごとの流行のどちらも含むべきだ、と。適性検査における不易、つまり時代が変わっても変わらない価値を教えていただけますでしょうか。 

二村:
活用のされ方・製品については時代と共に進化してきていますが、適性検査を通じて、「普段の行動だけでは分からない資質面が可視化でき、活躍予測の一助となる」点が効能であることは、時代を経ても変わらない価値かと思います。日常の仕事ぶりだけではすぐには分からない潜在している側面について、客観的な情報を得られるメリットがあります。 

坪谷:
二村さんの著書『人事アセスメント入門』(日経文庫)のなかにはこうあります。"昇進昇格選考は、職場を預かる管理者が主体的に進めるべきものですが、そこにはエラーがつきものでアセスメントの専門的な技術によって介入したり調整したりして支援する必要があるのです。それが人事部門と人事アセスメントツールの本来的な役割なのです。"と。この本来的な役割は、普遍的なのですね。 

二村:
管理者適性は極めて複雑であり、絶対的評価ツールは存在しない。一人ひとりの個性・人間性を尊重する立場からもできるだけ多様な情報・データによって、慎重かつ総合的に判断することが求められているといえます。


適性検査は科学的なツールですが、分析的・一面的になりがち、ともいえます。日ごろどのような行動を取っているか、どういう場面でどういう行動を取る特徴があるか、という観点においては、上司評価がベースになりますが、一方で客観性という観点では課題があります。360度評価、アセスメントセンターも有効ですから、それらの効能と限界を理解したうえで、併せて活用していくということです。

人材登用の意思決定は、企業・組織、個人双方にとって非常に影響が大きいものですから、一人ひとりの適性・個性にかかわる多様な情報を集め、慎重に・総合的に判断することが必要だと思います。

NMAT開発時のこだわり・特徴

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坪谷:
管理者適性検査の開発時に二村さんが「こだわった点」があれば、お聞かせください。 

二村:
研究・開発にあたっては、実際に活躍している人材の特徴を捉えているか、という「実証性」に強くこだわりを持って進めていきました。MAT・NMATは開発・リリースから多くの研究を発表しています。1970年に「管理者適性検査作成に関する研究;その1管理者適性の因子分析的研究(大沢武志、増山晴美)、日本応用心理学会発表論文集」を発表したことを出発点として、継続的に研究・学会発表を行っています。以下のページにその一部が掲載されています。
https://www.recruit-ms.co.jp/research/thesis/

適性テストの開発は、想定するリーダー像にテストの内容を合わせる必要があるわけですが、MATNMATではすぐれたリーダーに普遍的に見られる基本的な人物特性を探索することに注力してきました。特定の突出したリーダー論によらず、実証的なデータに望ましいリーダー像を語らせるアプローチですね。この考え方は、3度の改訂を通じて一貫しています。

坪谷:
なるほど。流行している特定のリーダー論ではなく、普遍的な人物特性を探索し「データによって語らしめる」。まさに、アカデミックと実際の企業人事を結びつけるために必要なアプローチだと感じました。

今後の管理職登用におけるキーワードは「個別化」

坪谷:
これからの管理職登用におけるテーマは何になってくるとお考えでしょうか。

二村:
今後のキーワードは「個別化」ではないかと思います。
個人の価値観が非常に多様化するなかで、個人のキャリアイメージが4つの役職タイプ適性にそのままあてはまるケースばかりではなく、NMATやそのほかの情報をきっかけに個人がキャリアについて考えていく、会社がそれを支えていく。そこで適性検査が活用されていく形になっていくのではないでしょうか。
会社が管理職を選ぶツールとして活用するだけではなく、能力開発・キャリア開発にも活用していただくことは、NMAT開発時から意図していたことですが、ますますキャリア自律支援のツールとしての意味を持ってくるのではないかと考えています。 

坪谷:
二村さん、ありがとうございました。


次回は、この創業からの想い(ソース)を受け継いでいる、現在のNMAT開発リーダーにインタビューを行い、今・これからの管理職・マネジャーをどう見つめ、どうNMATを進化させているのかを探りたいと思います。