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坪谷邦生氏と考える
「マネジャー・管理職登用のこれから」第3回
管理者の可能性を広げるツールとしてのNMAT

2024年10月06日 NMATの特徴 マネジメント/管理職とは 管理職登用

坪谷邦生氏と「管理職登用のこれからについて考える」連載第3回として、管理者適性検査NMATWeb版の開発者である、株式会社リクルートマネジメントソリューションズの川越未紀にインタビューを行いました。
インタビュアーは坪谷邦生氏です。

NMATの灯を絶やさないようにしなければという想いで開発を担当


坪谷邦生氏(以下坪谷):
創業時からの想い(ソース)を受け継いでいる、現在のNMAT開発のリーダーである川越未紀さんに、NMATの現在と、マネジャー・管理職登用のこれからについてインタビューします。

「管理職の登用」は現代の組織における重要なテーマの一つですが、「管理者適性検査」というツールが存在していることは、意外と知られていないように思います。まずは川越さんがNMATの開発担当者になった経緯を教えていただけますか。

川越未紀(以下川越):
私は大学院修了後、2014年に新卒でリクルートマネジメントソリューションズに入社しました。NMATは、最初に配属された事業部の先輩が開発を担当されていました。私自身も入社1年目からNMATに関わりを持っていたのですが、2015年にその先輩からNMATの開発担当を引き継いで、今に至ります。

実は会社の中ではあまり目立つサービスではなく、当時はマークシートでしか試験が実施できないなど、開発上の課題も見えている状況でした。しかし、担当になってみるとNMATが想像以上にお客様に必要としていただいている・愛されているサービスであることが分かりました。開発のためのヒアリングを進めさせていただく中で、お客様である人事の方から「NMATに助けられている」との声をいただく場面がありました。管理職登用は組織にとって非常に重要な意思決定であると同時に、候補者の人生においてもとても大きな影響があります。組織にとっても個人にとっても大きなプレッシャーがある中で、客観的なツールであるNMATがあることで、人事担当として精神的に助けられている点がある、とおっしゃっていただいたのです。

NMATの品質を維持・向上させていくことで、この灯を絶やさないようにしなければという想いでここまで続けてきました。

坪谷:
NMAT」は50年以上の歴史がある素晴らしいツールですが、一方でマークシート方式でしか検査できないという課題を抱えた状況でした。私にはそれは創業からの想い(ソース)を本気で受け継いだ人物がしばらく不在だったからではないかと想像しています。

川越さんは、そんな状況の中で入社してから10年間、ずっとNMATに関わってきたのですね。

川越:
そうです。私は大学院時代、「職責や職位によって人の考え方は変わるのか?」というテーマで社会心理学の研究をしており、修士論文にNMATのことも書いていました。

リクルートマネジメントソリューションズに入社したのは、その研究成果を職場で実践的に活用してみたいと思ったからでした。担当になったのは偶然ですが、もともとの関心領域・研究テーマとは接点がありました。

ミドルマネジャーの負荷を減らすサービスを開発したかった

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坪谷:
引き継いだ時点ではマークシート方式でしか実施できなかった検査サービスのWeb版対応という今回の改訂を、川越さんはどのような想いで実施されたのですか?多くのクラウドサービスが世の中に溢れている現代において、私が川越さんの立場だったら、「今になってWeb化?」と思ってしまいそうです。

川越:
私が担当になった2015年当時、すでに多くのお客様から「NMATWeb版を開発してほしい」と要望を受けていました。WebNMATの開発は必然の流れでした。私自身は開発者として、Web化を進めることを前提に、ただWeb化するだけはなく、時代に合わせて進化させたい、と考えました。

NMATは歴史のあるプロダクトであり、原点のMAT1969年に、NMAT1993年にリリースされています。そこから20年の時を経ての開発ということで、これまで多くのお客様に価値を感じていただいてきた点を生かしつつ、Web版で何を大切にしどう改定していくかを決定することの責任は重く、簡単ではありませんでした。

私は「お客様企業の人事、管理職にとって役立つツールにしたい」「日本のミドルマネジャーの役に立つサービスにしたい」という気持ちを強く抱いており、それが開発のモチベーションになっていました。

坪谷:
なるほど。「日本のミドルマネジャーの役に立つ」ことが川越さんの願いだったのですね。どうしてそう想うようになったのでしょう。

川越:
開発プロジェクトの一環で、さまざまな企業のマネジャーの方々にグループインタビューを実施したのですが、全員が後継者づくりに悩んでいました。

いわゆる「管理職になりたくない問題」が浮上してきた頃で、現場においてマネジャー志望者が少なく、皆が「自分のポジションを任せられる部下がいない」・「次期課長候補に誰を推薦していいのか分からない」・「自分はマネジメントにこんなに苦労しているのに、なぜか部下のほうが評価される」といった悩ましさ・本音をぶつけていただく場となりました。

このグループインタビューを経て、「管理職候補者の不足」についての課題感が非常に高まってきていること、現場のミドルマネジャーがこの悩みに日々直面していることを強く感じ、どうにかしたい、と思うようになりました。こういった課題感をベースに、NMATの改定プロジェクトを進めていきました。

自分の性格や適性や指向に合ったマネジャーになれば、カリスマリーダーでなくても活躍できる


坪谷:
実際の企業のマネジャーの方々の「本音」を聞いてきたことが、川越さんの想いの根幹にあるのですね。
NMATはどうやってその悩んでいるマネジャーたちを助けることができるとお考えですか?

 川越:
これはWeb版以前からですが、NMATは「主観が入らない」こと(客観性)が大きな強みになっています。人事の皆さんが昇進・昇格で最も悩むことは、昇進・昇格を見送られた従業員のエンゲージメント・社内の人間関係へのネガティブな影響です。

当人が決定に納得がいかない場合、「人事の主観で決められたのではないか」・「部長や経営陣の基準が間違っているのではないか」と感じることで、当人のエンゲージメントが下がってしまう、人事や経営陣との関係性が悪化してしまうことにつながります。誰かが昇進・昇格の意思決定をする限り、このリスクをゼロにするのは難しいでしょう。

NMATを判断材料の1つとして取り入れることで、実証データに基づいた客観的・相対的な評価だからこそ従業員も受け止めやすくなる側面があると思います。

実際、長年利用しているお客様から「客観的な意思決定を進める・当人の納得感のある制度運営を進めるうえで、NMATがなくなるのは本当に困る」と言われることがよくあります。

坪谷:
NMATは人事や経営者とマネジャー候補の方々の間に、客観的な「中間物」として介在することで、その関係性を担保してきたのですね1

今回、川越さんが改訂されたWebNMATでは、さらにどんな強化が行われたのでしょう。

川越:
WebNMATは「管理職になることに不安がある方々の背中を押すツール」であることが特徴です。日本企業には「私はカリスマ的なリーダーシップは持ち合わせていないので、マネジャーは務まらない」とか、「私は立派な管理職にはなれない」と思い込み、管理職への昇進を躊躇している従業員がたくさんいらっしゃると思います。そのことが「管理職になりたくない問題」の一因になっているのです。

しかし本来、日本企業には管理職を立派に務められる人材が数多くいます。

今の時点で「私には管理職なんて無理」と思い込んでいるなかにも、実際にはマネジャーとして活躍できる方が何人もいるのです。カリスマリーダーになろうとする必要はなく、自分の性格や適性や指向に合ったマネジャーになれば、それで十分に活躍できるはずだと考えています。

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坪谷:
「管理職になりたくない問題」の背景には、おっしゃるとおり管理職になることへの"不安"があると私も思います。自分の「持ち味」を生かした管理職になってほしいという思想がWebNMATには込められているのですね。

川越:
その通りです。私たちはWebNMATを「自分らしいマネジメントスタイルを考えるきっかけ」にしたいと考えました。そのため、一人ひとりの性格特徴・適性・指向に合ったマネジメントスタイルをフィードバックする報告書・仕組をご提供しています。同時に、マネジャーとしての課題や啓発ポイントも伝える、成長支援ツールとしてもご活用いただける形としています。

坪谷:
なるほど。NMATはマネジャーの自己理解を促進するツールとして進化したのですね。2

不安な方を後押しして、ご自身のマネジメントスタイルについて見つめて前向きに取り組んでいくきっかけを創る、という川越さんの開発方針がよく理解できました。

NMATのソースはどのように継承されたのか 

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坪谷:
トム・ニクソン『すべては1人から始まる ビッグアイデアに向かって人と組織が動き出す「ソース原理」の力』によれば、ソースとは"傷つくかもしれないリスクを負いながら最初の一歩を踏み出し、アイデアの実現に身を投じた個人"のことで、その1人の個人が重要な役割を担っていると言います。そしてソースは"組織における形式的な肩書や法人の所有権とは関係なく"継承されていくのだそうです。

私には、川越さんは管理者適性検査NMATのソースを創業者から受け継いだ、現在のソースであるように見えます。川越さん個人として、継承がなされた瞬間がいつだったのか思い当たることがあればぜひ教えてください。

川越:
私が商品担当になった最初の頃は、今ほどの思い入れはなかったように思います。「ミッションとして引き継いだ以上は守らねばならない」という仕事上の責任感が最も大きな要素でした。

引き継いだ後しばらくの期間は商品理解・お客様理解のために営業同行を通じて数多くのお客様とお会いする機会を持ち、ある程度掴めてからはセミナーやガイダンス講師など人前でNMATについて直接お話させていただく機会も増えていきました。お客様・ガイダンス受講者の方々に語れば語るほど、提供価値の明快さ、色褪せないロジックの秀逸さといった商品の特長が自分の中でシャープになっていきました。

また、NMATについてお客様と会話する中で「難しかったこと」「困ったこと」ではなく、「もっと活用したい」というご相談が多いことにも気が付きました。もちろんお問い合わせなどはたくさんいただくものの、ご説明を通じて商品を理解していただければ、お客様側で自立的にご活用いただけることに驚きました。NMATは価値が明確でシンプルである、という商品特性を肌で感じることができたのは、その経験からだと思います。

さらに、何人ものお客様から「人事判断の際の心の拠り所になっている」というお言葉をいただく中で、「私は非常に重要なサービスを任されていて、実はとんでもない重責なのではないか」という気持ちが次第に強くなっていた、という流れだったように感じます。

若手のうちから担当していたこともあり、「自分たちが防波堤である」「この事業・プロダクトを担っているのだ」という想いを早くから抱きやすい環境だった、ということも影響しているかもしれません。

また、開発部門の同僚も皆NMATの価値に実感・想いがあるメンバーが多く、私の性格特性上「自分がいいと思うものにチームも共感しているからこそ、チームメンバーのためにもこの商品を拡大させたい」という感情からも、自分自身の背中も押されていたように思います。

まとめると、自分で商品を語る経験、世の中で不可欠なサービスだと感じさせていただけたお客様の声、自社内の環境、自分のチームに貢献したい想い、これらが全部合わさったことがソース継承のきっかけになったように感じます。 

坪谷:
ありがとうございます。リクルートマネジメントソリューションズの創業者、大沢武志さんの「個をあるがままに生かす」という創業からの思想が、NMATというサービスの中に、そして川越さんの中に、今も息づいていると感じました。

第3回を終えて

これまで全3回の連載において「マネジャー・管理職登用」を探求してきました。

連載第1回目では「マネジャーの管理職になりたくない問題」を取り上げ、なりたいかどうか(志向)だけではなく、向いているかどうか(適性)に着目すると見えてくる世界が変わり、企業にとっての打ち手の選択肢が増えることをお伝えしました。
(坪谷邦生氏と考える「マネジャー・管理職登用のこれから」第1回 
https://www.mat.recruit.co.jp/nmatnews/000461.html 参照)

そして第2回目ではその適性を測定するツールである管理職適性検査NMATの限界と効能について、創業時からの開発者である二村英幸さんにインタビューしました。NMATは実際に活躍している人材の特徴を捉えているか、という「実証性」にこだわり、流行している特定のリーダー論によらず、普遍的な人物特性を探索して「データによって語らしめる」ことに拘って50年以上研究・開発され続けてきたツールであることがわかりました。
坪谷邦生氏と考える「マネジャー・管理職登用のこれから」第2回日本における人事制度の潮流と管理者検査NMAT開発の歴史 
https://www.mat.recruit.co.jp/nmatnews/000469.html 参照)

この第3回目では、現在のNMAT開発のリーダーである川越未紀さんに、NMATの現在と、マネジャー・管理職登用のこれからについてインタビューしました。
NMATはこれまで人事や経営者とマネジャー候補の方々の間に、客観的な「中間物」として介在することで、その関係性を担保してきたこと1、不安を抱きやすい新しいマネジャーを後押しする「自己理解を促進するツール」として進化したことがわかりました2

また、創業時からの想い(ソース)を現在のリーダーがどのように受け継いだのかを知ることができました。重要だったのは①自分で商品を語る、②お客様の声から世の中で不可欠なサービスだと感じる、③社内外環境から要請を受ける、④自分のチームに貢献したいと思う、といったプロセスでした。顧客とプロダクトの歴史と仲間つまり「NMATを巡る物語」が、川越さんという「個」の意志によって統合され、形となった。私はそこにソースのダイナミズムを感じます。おそらくそのダイナミズムこそが、創業者大沢武志さんの言う「個をあるがままに生かす」なのではないでしょうか。

※1 中間物の重要性については、坪谷邦生氏と「自己理解・相互理解を深める」第二回「データをきっかけにした対話から、ひとり一人の個性を生かしあう人事・組織へ」https://www.spi.recruit.co.jp/spi3news/000380.html 参照)

2 自己理解の重要性については、坪谷邦生氏と「自己理解・相互理解を深める」第一回「自分を知り、相手を知り、生かしあうことが 個と組織を強くする」
https://www.spi.recruit.co.jp/spi3news/000374.html 参照)