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女性管理職がイキイキと活躍するために、昇進・昇格で気を配るべきこととは?

2024年01月22日 マネジメント/管理職とは 管理職登用

2019年12月、フィンランドで世界最年少の34歳の女性首相が誕生したニュースを、ご記憶されている方も多いのではないでしょうか。その若さと"女性であること"の衝撃は大きく、日本でも瞬く間に話題となりました。 

日本においても2015年に「女性活躍推進法」が制定されて以降、「ジョカツ(女性活躍)」というワードは広く企業に広まっていきました。 

一方、世界経済フォーラム(WEF)が2023年に発表した「ジェンダーギャップ指数(GGI)」では、日本は146 カ国中125 位という低い水準にとどまっています。

 世界的に女性の社会進出が進んでいるものの、日本における現状は芳しいとはいえません。「ジョカツ」をかけ声で終わらせないために、経営や人事はどのような点に注意し、どのようなことに取り組めばよいのでしょうか。

 今回は企業の管理職への女性登用について、現状とその背景にある要因および対応について考察していきます。

女性活躍に至るまでの変遷

今では「女性活躍」という言葉そのものは世のなかに浸透していますが、この状態に至るまでの歴史をひもといてみましょう。

遡ること約160年の1860年代、明治維新を皮切りに女性活躍の場が広がりました。
これまで農作業や家事が中心だった女性の仕事が、製紙工場での仕事や教師・看護婦といった専門職にまで広がっていったのです。 

その後1945年に終戦を迎えると、婦人参政権が実現。1954~1973年の高度経済成長期には事務職が大幅に増加し、短時間労働で働くパートタイマーが出現していきました。ただし職場での男女格差が問題になり、その対策として1985年には「男女雇用機会均等法」が制定されました。この法規は、採用や昇進・昇格場面での男女格差が世間的に認識されたきっかけといえるでしょう。

経済発展のなかで変化したのは働き方だけにとどまらず、女性のライフスタイルも大きく変化しました。育児や介護と仕事の両立を支援するため、1991年には「育児・介護休業法」が成立しています。

2015年には"女性活躍推進"を最重要政策の一つとした安倍内閣によって「女性活躍推進法」が成立しました。さらに政府は第4次男女共同参画基本計画のなかで、女性の社会進出に向けた明確な数値目標も設定しています。指導的地位(企業でいうところの「管理職」)での女性比率を、2020年までに30%まで伸ばす「2020年30%」のスローガンを打ち出したのです。 

私たちは「女性活躍が声高に叫ばれるようになったのは、つい最近の潮流だ」と、つい思いがちかもしれません。しかしこのように女性活躍は文化的な要因や社会情勢など、大きなうねりのなかで徐々に広がっていったのです。 

現在もなお、「人的資本経営」や「生産年齢人口の減少」などの課題を解決する重要なカギとして、女性の活躍にスポットライトが当たる渦の真っただ中にあるといえるでしょう。 

企業における女性活躍の現状

政府のスローガンを受けて、企業内の女性管理職はどのように変化していったのでしょうか。

課長級以上の管理職に占める女性比率は、平成21年度から令和2年度の16年間で2.2ポイント上昇しています。課長級(10.8%)も部長級(8.4%)もその水準は上昇傾向にあるものの、政府目標の達成には、ほど遠い状況です。

 図表1:役職別女性管理職割合の推移(企業規模10人以上)

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*平成23年度の割合は、岩手県、宮城県及び福島県を除く全国の結果。

出典:厚生労働省 「令和4年度雇用均等基本調査」

続いて、リクルートワークス研究所が2015~2019年に実施した調査で、企業規模別に女性管理職の比率(正社員)を確認します。

課長級以上の管理職に占める女性比率は、100人未満の企業(いずれも約14%前後)の方が、100人以上の企業(7.7~9.6%)よりも水準は高いことが分かりました。規模の小さい企業の方が、労働力不足が喫緊の課題となっているため、いち早く女性活躍に着手している状況があるのかもしれません。

参考:女性活躍(2020年11月版)|定点観測 日本の働き方|リクルートワークス研究所 (works-i.com)

ただし、女性管理職登用が進んでいる中小企業においても、政府目標の半分程度にとどまっているのが、日本企業の現状です。

一方で、女性活躍に関して、「女性の活躍推進が進む企業ほど経営指標が良く、株式市場での評価も高まる。」という興味深い傾向が確認された調査結果*1もあります。

 *1:「成長戦略としての女性活躍の推進」平成26年11月 経済産業省経済産業政策局 経済社会政策室  

この調査からは、女性管理職の登用という新たな価値創造が、企業の業績向上に寄与している可能性がうかがえます。

このように徐々にですが企業内での女性の活躍が進み、業績との相関も確認されているにもかかわらず、加速度的に女性管理職が増えないのは、女性ならではの要因が関係している可能性があります。

次項では、女性の意識面に潜む課題について探っていきます。

女性の意識に影響を与える要因とは

さっそく働く女性の意識について、状況を深堀りしていきましょう。

ある調査によれば、女性は男性に比べて「仕事より家庭生活を優先する」と回答する人が多く見られました。

さらに別の調査によれば、現在、役員として活躍している女性であっても、就任当初は「長く働きたい」「出世したい」という意向を持っていた人は少数であったことが分かりました。

参考:「男女共同参画白書 平成24年版」内閣府男女共同参画局
参考:「女性役員の『一皮むける経験』」works review 2006

つまり、企業側が女性管理職の登用に意欲的であっても、意欲を持った候補者を探すこと自体が容易ではないのです。

女性の管理職への意欲が高まらないのは、家庭の事情のようなライフプランの影響も大きいですが、より根深い女性心理の要因もあります。

「インポスター症候群」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。自分の力で何かを達成し周囲から高く評価されても、自分の能力を過小評価してしまう傾向を指します。

この概念は、心理学者のポーリン・ローズ・クランスとスザンヌ・アイムスが、高業績を達成した女性を対象にした1978年の研究で示したのが始まりです。

インポスター症候群は、特に飛び抜けて大きな成果を上げる「ハイアチーバー」に見られる現象です。

管理職登用場面で考えると、たとえ抜擢されて結果を残したとしても、実績をありのままに受け止めることが難しく、自分は称賛に値するのかと多くの疑問を感じてしまう感情に置き換えられます。この現象は女性自身の内側にも要因はありますが、実はそうしたレッテルを貼る周囲の環境にも問題があります。

「女性なのに」や「実績を上げていないのに」など、男性社会でのリーダーシップスタイルを前提とした無意識なバイアスも、要因の1つといえるでしょう。 

そのような職場環境に身を投じていると、自己不信に陥る女性管理職が男性よりも目立つようになります。

その結果、イキイキと働く女性管理職のロールモデル数が増えず、管理職になりたいと思う管理職予備軍の女性も増えない構造があるのかもしれません。

周囲に「女性活躍」をどうメッセージするか

インポスター症候群の事例を踏まえると、女性活躍を考える際に、女性側の意識だけを注視する施策では足りないことが分かります。

周囲の環境も含めた視界で女性活躍の取り組みをしないと、本来的な女性管理職が活躍できる状況には至らないのです。

例えば、政府の「2020年30%」という数値目標があることで、むしろ悪影響が出るケースも散見されます。女性の能力を度外視して"人数合わせ"のような状態で、女性管理職を生み出している企業がないとは言い切れません。

そうなると男性側には「なぜあの女性が管理職になるのか?」などの不満感や不公平感が生じてしまいます。自社の昇進・昇格制度への不信感も相まって、女性にとっては伸び伸びと働きにくい環境が生じてしまうのです。

さらに"人数合わせ"式の昇進・昇格では、抜擢された女性管理職自身にも、明確な理由や根拠が示されないことが想定されます。そうなると女性管理職本人も、「なぜ私が選ばれたのか?」と不全感を抱えた状態で働くことになります。

このような状況では性別以前に、企業としての昇進・昇格の基準に対する不満が噴出している状態といえるでしょう。

昇進・昇格の納得感を促す「客観的なものさし」

女性の管理職登用の公平性や周囲からの納得感を高めるために、活用できるのが客観的な指標となる適性検査です。性別にかかわらず、「自社の管理職の登用基準」が明確でないと、社員のネガティブ感情は消えることはありません。

ただしゼロから登用基準を作ろうとすると、ハイパフォーマーインタビューや選考基準作りなど、人事部門の負荷が増大します。このパワー捻出がネックとなり、曖昧な基準のまま昇進・昇格運用を続けてしまう企業も少なくないでしょう。

そこで、自社の管理職登用基準を考える際の参考となるのが、管理職に特化している適性検査です。

弊社の「管理者適性検査NMAT」は1969年の初版開発時に、管理職として共通して求められる素養を「基礎能力・性格特徴と指向」で測定しています。

現在では年間1100社・27000名(2023年3月期)が受検する、管理職専門の適性検査のパイオニア的存在です。

図表2:NMATが測定している領域

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1名6000円・最短75分で受検できる点も、コストやパワー捻出に悩む企業にとっては、トライアルしやすいでしょう。

もちろん、世間一般の基準を土台に、ゆくゆくは自社なり・部門なりの基準に作り替えていく必要はあります。ただし自社内で基準を作る余力がないという企業にとっては、「周囲に昇格理由を説明できない状態」から「27000名と相対比較して適性を判断した状態」になることは、大きな前進となるのではないでしょうか。

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女性の「Must-Can-Will」を後押しするアプローチ

前述したとおり、もともと昇進・昇格意欲が高い女性は少数です。

ライフイベント・女性をとりまく周囲の環境・女性自身の心理など、ケアが必要な観点が多く、何をサポートしたらいいか分からない人事・上司の方も多いのではないでしょうか。

女性の特性として、周囲の期待を受けてから自分自身の期待値を調整する傾向があるといわれています。そのため、Must-Can-Willのフレームを使って、女性管理職候補をフォローするのが効果的です。

 意欲の低い女性に、いきなり「主体的な意志=Will」を求めても共感は得られません。Willを引き出すためには、「会社や上司からの期待=Must」と「不安の軽減=Can」に働きかけることが有効です。

  

図表3:昇進・昇格場面で活用できるMust-Can-Willフレーム
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これまでの「当社の女性管理職の目標は〇名だ」という、納得感が薄いMustの基準しかないケースと比較してみてください。NMATがあることで、候補者一人ひとりにフィットした「Must-Can-Will」を引き出すアプローチができるようになります。

  • Must:会社や上司からの期待・要望を明確に伝える
  • Can:NMATの人物特性から、対象者が世間の管理職より秀でている特性をフィードバックする
  • Will:NMATの志向を確認し、本人が望む管理職としてのスタイルのすり合わせを行う

さらに、NMATを通じた昇進・昇格運用のプロセスで「自社で活躍しやすい管理職の特徴」が分析できるため、先々のMustでは「自社の管理職要件」を示すことにもつながるでしょう。

適性検査を女性管理職の「やりがい」につなげる

「自分の仕事を愛し、やりがいを感じる、これ以上の喜びがあるだろうか」

これはワシントンポストの社長を務め、ピューリッツァー賞も受賞したキャサリン・グラハムの言葉です。

女性管理職全員がこのように目の前の仕事を捉えることができれば、日本の企業力がパワフルに向上する世界へとつながる可能性があるのではないでしょうか。

ただし、本記事で紹介したように、女性ならではの事情や心理はなかなか複雑です。最終的には女性管理職一人ひとりの状況を踏まえたサポートが必要になりますが、本人がやりがいを感じるのには、客観的な情報は背中を押す効果が高いでしょう。

単なる昇進・昇格の基準として適性検査を活用するだけではなく、女性一人ひとりが力を発揮し、やりがいを感じられるようになるための材料へと昇華させていただけると幸いです。

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