導入事例・コラムCOLUMN
管理職は内部から育成すべきか、外部から採用すべきか
「自社の管理職は、今在籍している社員から登用されるもの」このようにお考えの方は、実は多いのではないでしょうか。
一昔前の日本企業は、このような考え方のもと、社員に対してジョブ・ローテーションや幹部育成研修など、さまざまな施策を投じてきました。
しかし、変化のスピードが速い現代のビジネス環境においては、社員の成長に加え、外部から管理職の適材を採用するという動きも広がりつつあります。
今回は管理職を外部から中途採用するというテーマに焦点を絞り、日本企業の現状や採用における注意点についてお伝えします。
「生え抜き」を好む日本企業の管理職登用
人の能力伸長を前提としている日本企業の多くは、メンバーシップ型雇用を採択しています。
かつてと比べ、日本企業においても年功序列や終身雇用は薄れつつあります。
しかし、まだまだ抜本的な制度運用に踏み出す企業は少数で、多くの企業では「人」に「組織や仕事」を用意するような運用が多く見られます。
メンバーシップ型雇用下では、新卒一括採用に代表されるように、主に人物を重視して雇用し、入社後に転勤や部署異動を繰り返しながらキャリアアップしていきます。その影響で、組織事情や職務事情での人の入れ替えには消極的といえるでしょう。
一方、欧米企業に代表されるジョブ型雇用を採択している会社では「組織や仕事」が前提となり、そこに「人」をアサインします。このような雇用の前提となる考え方があるため、管理職登用においても日本企業は「内部登用」するケースが多いという特徴があります。
ある調査においても、管理職層への中途採用を実施している企業は少数という結果が出ています。具体的には、管理職確保の方針として「内部育成:生え抜き登用」が約7割で、「外部から登用」の3割弱に比べて多数派です。
参考:労働政策研究・研修機構「中小企業における採用と定着」(2017年)
「新卒採用から大事に育てた、ロイヤリティが高い社員に、会社の将来を左右する管理職を任せたい」調査結果からは、このような思想が見て取れるのではないでしょうか。逆にジョブ型雇用を採択している企業では、「会社の将来を左右する管理職なので、社内に適任者がいなければ社外から調達すべき」という発想となります。
どちらが正解というわけではありません。
しかし「社内に適任者がいない」場合は、従来型の思想から離れる必要もあるかもしれません。
社内の人材を管理職に見合うまで育成するためにコストや時間・パワーをかけるか、外部から即戦力となる人材を採用するかは、慎重に判断すべきでしょう。
増加しつつある管理職の中途採用
管理職登用や採用を含む従来型管理職のあり方に、日本企業も課題を感じていないわけではありません。
ある調査結果では、従来のやり方を見直す必要性を感じている企業は4割以上にのぼっています。
ただし、そのうち実際に見直しに着手している企業は3割程度なので、まさに今が見直しを行う過渡期といえるかもしれません。
図表2 「管理職マネジメント」について、制度を変えたり、従来のやり方を見直したりする必要性を感じているか(単一回答 n=2,761)
図表3 「管理職マネジメント」について制度の変更や、やり方の見直しができているか (単一回答 n=1,222)
参考:リクルート 「企業の人材マネジメントに関する調査2023 管理職・ミドルマネジメント編」(2023年)
管理職を中途採用している企業が増えていることは調査結果からも分かります。
管理職の2022年度の求人数は、2016年度の3.67倍と増加傾向にあり、業界別の伸び率では、IT通信業界が最も高い一方、日本型雇用の傾向が強い製造業でも伸びが見られます。
参考:リクルート「管理職の採用動向」(2023年)
グローバル化、DX推進やサステナビリティ強化、働き方改革など、日本企業のビジネス環境は、ここ数年で枚挙に暇がないほど、大きな変化の波が押し寄せています。急速な環境変化を背景に、事業変革を推進するための管理職の中途採用を強化しているのが、調査結果にも表れているのでしょう。
先ほどの「4割の企業において課題意識はあるが、そのうち3割は未着手」を思い返してみましょう。
課題解決に着手した企業が「社内に管理職の適任者がいないなら、外部から調達しよう」と、管理職の中途採用に踏み切ったと仮定します。従来型の方法として内部で時間をかけて管理職を育成した企業と、外部から即戦力の管理職を採用できた企業では、数年後に大きな競争力の差が生まれるのではないでしょうか。
マネジメント力をどう見極めるか
外部から中途採用をするとして、果たして採用場面でどのような要件を確認したらよいのでしょうか。
例えば「主体性」「課題解決力」などは、過去の職務経験などを聞くことで担保できます。
しかし「管理職採用」となると、無視できないのが「マネジメント適性」です。
社内の昇進・昇格場面でも「名プレイヤー、名監督にあらず」という現象が起こるように、マネジメント適性は、プレイヤーとしての動きのみではなかなか予測しにくい力といえます。そのため、「上司の推薦」「過去の実績」など曖昧な指標が基準となり、マネジメント適性がない人を登用しているケースも少なくはありません。
ましてや、初対面の人を採用する中途採用となると、さらにマネジメント適性を見極める難度は上がります。さらに、メンバーシップ型の日本企業では、管理職を外部から中途採用することに対して、社員は少なからず抵抗感を持ちます。そういった感情面にも注意が必要です。
内部ではなく外部から採用したうえに、マネジメント適性が乏しい人をいきなり管理職にしてしまうと、社員の反発・社内の軋轢は避けられないでしょう。
マネジメント適性は汎用性が重要
ポテンシャル採用といわれる新卒採用と比べると、中途採用は即戦力を求めるため、スキルや過去の職務経験を問う傾向にあります。 このような仕事に固有なスキルをシビアに問う一方で、見逃せないのが「マネジメント適性は、業種や職種をまたいで、ある程度汎用性がある」という点です。
もちろん要件の解像度を上げていけば、自企業や組織特有の要件もあるでしょう。
しかし「メンバーの成長を支援する」「組織力で成果を上げる」のような管理職として普遍的に求められる要素は、ほとんどの企業での共通要素となります。そのため、スキルのような自社固有な要件確認に加え、マネジメントとしての汎用的な能力見極めは、管理職専用の適性検査で担保することを推奨します。
そのような管理職適性に特化した適性検査のパイオニアといえるのが「管理者適性検査NMAT(エヌマット)」です。 NMATでは、人の行動のベースとなる資質の領域を測定しているため、これまでの職務履歴やスキルでは見極めにくい、管理職としての未知の能力予測が可能となっています。
■図表5 NMATが測定している領域
中途採用に限らず社内登用であっても、未経験である管理職としての活躍度を、過去の経験から予測するのは難しいでしょう。
弊社の「管理者適性検査NMAT」は1969年の初版開発時に、あらゆる業種の68社・3565名のデータをもとにして、管理職として共通して求められる素養を抽出しました。その後も年間1100社・27000名(2023年3月期)のデータをもとに、「求められる管理職像」に時代に合わせてチューニングを加えてきました。
実際に、NMATの尺度と現実の活躍度合いは関連性が認められるとする研究データもあります。
図表6 NMAT結果とその後の活躍状況の関係
追跡調査:
・2004年から2008年にNMATを受検した6社960名を対象とした調査。
ご利用いただいている企業の協力のもと、自社の現役管理職の昇進度合いを3段階(G・M・P)に区分していただき、NMATデータとの関連性を調べたところ、統計的な有意差が見られました。
つまり、「NMATの得点が高い人のほうが、現実に管理職として活躍している」といえます。
「生え抜きを好む」日本企業のやや保守的な風潮があるならなおさらのこと、「世のなかと比較した、客観的な基準で選んだ」という根拠は、心強い存在となるでしょう。
「即戦力」の言葉の裏に潜むものとは
管理職の中途採用は、適任者を採用できれば、組織変革を促すカンフル剤になり得る可能性があります。また個人の観点でも、転職に前向きな層が増えており、管理職での転職希望者数も増えてきています。
今はまだ、管理職の中途採用が広がりつつある過渡期かもしれません。しかし潮流的に、今後は管理職層の採用マッチングは、多くの企業で試行錯誤が進んでいくことが予想されるでしょう。
ただし、ハイキャリア人材の採用ならではの落とし穴もあります。
即戦力として、職務履歴書を詳細に確認し、過去のプロジェクト経験などを聞いたとしても、結局は採用者が組織に馴染まなければ意味がありません。
特に管理職としてのやりがいや適性は、変わりにくい性格特性の影響が大きい傾向にあります。
「調整」を重んじるタイプが、管理職になったからといって急に「統率」リーダーシップを発揮できるとは限りません。
このような風土や性格ミスマッチは、企業の損失のみならず、一大決心をして転職をした個人のキャリアにも傷をつけかねません。厳しいビジネス環境を勝ち抜くために管理職の中途採用を導入するのであれば、企業側にも個人側にも、輝かしい未来が見込まれる機会となるように気を配りましょう。