導入事例・コラムCOLUMN
昇進・昇格試験に適性検査を取り入れる際のポイントは?~事例から解説~
「自社の昇進・昇格試験に適性検査を導入しようと思っているが、どのように基準を設計したらいいか分からない」「適性検査導入にあたって参考になるような事例を探しているが、表面的な事例しか見つからない」
適性検査があることでなぜ昇進・昇格運用の客観性を担保できるのか、詳細はこちらをご覧ください。
「なぜあの人がマネージャーに?」に答えられる~客観指標があれば、昇進・昇格の説得力が増す~【前編】
「なぜあの人がマネージャーに?」に答えられる~客観指標があれば、昇進・昇格の説得力が増す~【後編】
ただし現在、昇進・昇格の基準を全く持っていないという企業は稀でしょう。
多くの企業では既存の昇進・昇格の基準や試験があり、そこに新しいものさしである適性検査の導入を検討されているのではないでしょうか。その際、現在の基準に加え適性検査をどの程度加味したらいいか分からない、他社がどうやって基準を作成しているか知りたい、という声も一定数聞かれます。
今回は、多くの企業の昇進・昇格制度をご支援してきた立場から、適性検査での基準の設計方法、及び具体的な事例をお伝えします。
適性検査に限らず、複数の昇進・昇格の基準をどのように判断すべきかのヒントが欲しいという方は、ぜひご一読ください。
INDEX
適性検査の昇進・昇格試験への組み入れ方
適性検査を昇進・昇格の基準に取り入れるといっても、具体的にはどのようにしたらよいのでしょうか。
適性検査の活用事例を公開されている企業においても、具体的な基準までは公にしないケースが多いでしょう。 多くのケースでは、適性検査以外に「過去の人事評価」「論文」「面接」「専門知識試験」など、複数の項目を設けて昇進・昇格を検討することがほとんどです。
そのような複数項目のなかで、適性検査の結果をどのように合否判定に反映するかは以下の3通りがあります。
総合評価型
複数の情報を足し合わせて合計点を算出し、総合的に合否判定する方法です。「多重合成方式」とも呼ばれます。どれか1つの要素が不足していたとしても、他に優れた面があれば補うことができる相互補完原理に基づいた考え方です。
この方式を用いる場合の注意点は、各項目の得点分布に注目することです。
例えば、当社が提供している管理者適性検査NMATのように標準化された得点で結果が算出される適性検査の場合は、候補者の個人差は明確です。一方、面接試験は「1・2・3・4・5」の5つの得点しかなく、さらに個人間で差がほとんどつかないとしましょう。
単純に両者の得点の合計で合否判定すると、結果はほぼ適性検査のみの選考と大差がないことになってしまいます。
このような事態を回避するためには、各項目の評価基準を明確にし、個人差が反映されるようにする、あるいは各項目の結果を同列に見られるように標準化する、などの対応が必要となります。
図表1 多重合成方式
こういった数値情報をもとにしながらも、当人への期待や経営陣としての意思を加えて、総合的な観点で合否判定する運用が一般的でしょう。
ただし「総合的に」というまろやかな言葉に引きずられ、複合項目を用いているものの、何の得点をどう判断するか曖昧な昇進・昇格運用になっている企業も少なくはありません。
複数の試験をやるからには、人事として各試験結果の扱い方についての基準は決めておくべきでしょう。
一定基準設定型
各項目に独立したカッティングライン(合格基準)を設けて、判定を行う方式です。「多重分割方式」とも呼ばれます。すべての試験項目で一定の基準を満たしていることが合格条件となる「AND方式」といえます。(他方、いずれかの条件を満たせば可とするのが「OR方式」という方法です)
図表2 多重分割方式(AND方式)
この方式は求める基準が厳しいため、選抜色・抜擢色が強い昇進・昇格運用をしたい企業に取り入れられることが多いでしょう。
また、基準が明確なため、昇進・昇格の透明性や公平性の担保にも効果があります。
この方法で注意したいのは、すべての試験が管理職としての活躍のために必要不可欠な要素なのかどうかを確認することです。
管理職としての活躍に関係のない試験を入れてしまうと、本来活躍しやすい人を見送りにする、あるいは活躍しにくい人を管理職の任に就けてしまうことになりかねません。
一度基準を作ったとしても、昇進・昇格者のマネジメントとしての実際の動きを確認しながら、試験内容や合否基準を見直すことが重要でしょう。
加点評価型
適性検査の評価が高い場合にのみ、加点的に評価に加算する方式です。
適性検査導入が初めての場合など、トライアル的に活用する際にお薦めの方法です。
初めて使う適性検査の場合、測定している尺度の内容や得点の見方など、適性検査のデータを見る勘所が備わっていないことが多いでしょう。そのような場合、いきなり合否判定のものさしとして使うのはリスクもあるため、ソフトランディング的に適性検査を活用できる特徴があります。
加点的に活用しながら自社内で実証データの蓄積を行い、管理職の活躍度との関係を分析して裏付けを得てから、選考基準としての位置付けを確定させていくとよいでしょう。
管理者適性検査NMATを活用している昇進・昇格事例
管理者適性検査「NMAT(エヌマット)」は、管理職としての適性を世のなかの管理職と"相対的に" 比較して測定できる適性検査です。
1969年に初版が開発され、その後も年間1100社・27000名(2023年3月期)の方々に受検いただいています。おそらく日本でもっとも広く活用されている管理職専用の適性検査の1つではないでしょうか。
ここからは、広く導入いただいている企業様のなかから、2つの事例を取り上げます。
NMATは潜在的な資質である「基礎能力」「性格特徴」「指向」の3つの観点で測定しているという特長があります。
図表3 NMATの測定領域
昇進・昇格場面での見極めのみならず、管理職の活躍のために幅広くNMATが活用できる2社の事例をご紹介します。
判断基準のブレをなくし、複雑な選考プロセスを最適化(大手メーカーA社の事例)
取り組みの背景・課題
大手メーカーA社は、グローバル化やダイバーシティへの対応を念頭に置き、管理職の登用試験制度に力を入れていました。ただし、管理職の選考プロセスにいくつかの問題がありました。
そもそも求めるマネージャー像を明確に設定していなかったこともあり、選考プロセスにおいて論理的な整合性が取れていない部分があったのです。また登用判断のため、教養試験や論文試験を自社で作成しており、人事担当者の運用負荷も非常に大きいものでした。
これらの理由から、選考プロセスを見直すことになりました。
プロセス・実行施策
見直しの結果、人事考課と昇進・昇格考課、面接など「人による評価」が判断に大きく影響していることが問題点として浮かび上がってきました。
同じ候補者が相手であっても、面接官によって評価にばらつきが生まれていたのです。面接官の判断基準を揃えるためにも、あらためて求めるマネージャー像を明確にする重要性が確認されました。
そのため、過去の登用試験対象者に対してNMATを実施し、マネージャー昇進者(合格者)と不合格者を確認すると、合格者は不合格者に比べて外交的で統率力が高く、理性的で強靭なタイプが多いことが分かりました。
また、組織管理タイプ、企画開発タイプ、創造革新タイプへの指向が高い人ほどマネージャー着任後に生き生きと働いていることも確認できました。
成果・今後の取り組み
以降、登用試験にNMATを組み込み、重視する要素を定めて選考を行いました。過去の合格者に共通していた尺度を満たしていた候補者に加点をする「加点評価型」として取り入れました。
同時に、マネージャーの活躍可能性と相関の低かった、教養試験などをやめることで、人事担当者の運用負担も軽減されました。人事部門としては、登用試験の負荷が軽減したことで、昇進・昇格直後の立ち上げ教育などに力を注げるようにもなったそうです。
今後はさらに新任管理職のフォローに力を注いでいきたいと、A社は展望を語っています。
昇進・昇格者のフォローのため、自己理解・キャリア開発にまで活用(IT企業B社の事例)
取り組みの背景・課題
ITシステムB社は、以前からエンジニアとしての力量と、管理職としての活躍に相関がないことに頭を悩ませていました。そこで、一般的な管理職としての活躍可能性という基準の必要性を感じ、NMATを昇進・昇格試験に導入しました。
NMATの「役職タイプ別適性」を一定基準で合否判定に用いる「総合評価型」で取り入れ、他にも直近2年の人事評価結果などの基準も組み合わせました。
昇進・昇格した人は概ね生き生きと管理職としての手腕を振るっていましたが、なかには本人の持ち味とは異なるマネジメントスタイルを貫いているマネージャーもいました。人事としては、「もっと違うスタイルに変えれば、さらに活躍できるのに」とジレンマを抱えていました。
プロセス・実行施策
B社では本人の持ち味をさらに引き出すために、キャリア開発研修を実施することにしました。
「キャリア自律」が叫ばれる昨今、自社の管理職としての活躍だけではなく、幅広い視野で管理職に自身のキャリアを考えてもらいたかったのです。その際、NMATの「あなたのキャリア開発のために」という本人フィードバック用の報告書を活用することにしました。
研修ではNMATで明らかになった自身の特徴や向いている管理職スタイル・自身の指向などをまずは理解してもらいました。その後はB社独自の「キャリア開発シート」を使い、マネージャー就任後の職場行動の振り返りを行いました。
それらを踏まえて今後どのような成長・貢献をしていきたいかというキャリア開発プランや、プラン実現のための行動計画を策定しました。
成果・今後の取り組み
研修参加者からは「自分のことを理解していると思ったが、意外な強みが見つかった」「メンバーマネジメントがギクシャクしていたのは、苦手な方法でコミュニケーションを取っていたからと分かった。少し気が楽になった」など、前向きな意見が多く出たそうです。
管理職クラスの社員になると、これまでの仕事経験から、自分の強み・弱みを「分かったつもり」になっていることも多かったのでしょう。
客観的な適性検査を受けることは新鮮な機会だったと共に、あらためて自身の特徴や経験を棚卸しする良い機会になったようです。
今後も一人ひとりの管理職の持ち味を発揮できるような施策を、B社は検討中とのことです。
ツールは運用できて初めて真の効果を発揮する
「昇進・昇格場面に適性検査というツールを導入する」というのは、あくまでもスタート地点です。
適性検査のデータを正しく昇進・昇格基準に組み込め、さらには管理職としての立ち上げフォローにまで活用できて、初めて真の効果が実感できるのです。
自社の昇進・昇格運用や管理職としての動きはどうあるべきかという目的意識を強く持ち、自社にフィットしやすい形で適性検査というツール活用を探求いただければ幸いです。